
議題: 丸山眞男における「スターリン批判」の思想的位置付け
―「問題意識」の交錯点としての―
発表者: 関西学院大学法学研究科 平石知久
日時: 2020年7月22日18時~
場所: Zoomでオンライン開催(参加希望者は前日までにshisoshiken@gmail.comにご連絡ください。)
〇要旨
1950年代は日本の政治イデオロギー上、大きな変化があった。保守・革新政党がそれぞれ自由民主党と日本社会党に集約され、保守政党である自由民主党が政権与党を担ういわゆる「55年体制」が確立し、改憲・安保護持の保守思想が政治的ヘゲモニーを得た。他方革新思想の担い手として、また大日本帝国時代から天皇制と対峙した唯一の主体として、政治的・知的ヘゲモニーを獲得していた日本共産党は、国際派と所感派とに分裂し、イデオロギー対立が先鋭化していった。
戦後日本における政治学・思想史学の碩学、丸山眞男にとっても1950年代は大きな意味を持つ。例えば日本の「前期的」近代性に西洋近代を対置する40年代丸山から、大衆社会に代表されるポスト近代の問題性を指摘する60年代の丸山との間には、大きな断絶がある。この両者をつなぐ時期が50年代という時代であるといえよう。
この時期、丸山は「スターリン批判」にまつわる論文の執筆や対談を行っている。日本の革新思想に大きな影響を与えた契機である「スターリン批判」に焦点を当て、この事件が丸山にとってどういった位置付けを持つのかを明らかにすることで、新たな視点から50年代丸山を見ることが可能ではないか、という意識が本報告の背景である。具体的には、「スターリン批判」において丸山が重視する要素(「問題意識」)がどのようなものかを著作・対談から抽出した上で、それがそれ以前の丸山の「問題意識」とどのような関連に立つのかを分析し、最後にその後の「問題意識」の展開を示すことで丸山の「スターリン批判」の思想的位置付けを明らかにしたい。
結論を先取りすると、「スターリン批判」における丸山の「問題意識」とは、①:政治的理念と政治的現実との間の緊張関係の欠如、②:スターリン崇拝における「国体」的正統性の残滓と統一の志向性(「正統病」)、③:「本質顕現論」や「基底体制還元主義」、共産主義思想における非合理を許容しない合理主義的なリゴリズムおよびその帰結としての官僚制の問題であり、それは戦前・戦中・戦後の「問題意識」が通底しながらも変質したものであった。その後ここで挙げられた「問題意識」は「正統と異端」の問題へと収斂してゆく。
〇参考文献
笹倉秀夫,『丸山眞男の思想世界』,みすず書房,2003
清水靖久『丸山眞男と戦後民主主義』,北海道出版界,2019
丸山眞男『丸山眞男全集』(特に第三巻以降,岩波書店,1996
丸山眞男『丸山眞男座談』,岩波書店,1998
丸山眞男『丸山眞男講義録』第四冊,東京大学出版会,1998
吉田傑俊『丸山眞男と戦後思想』,大月書店,2013
―「問題意識」の交錯点としての―
発表者: 関西学院大学法学研究科 平石知久
日時: 2020年7月22日18時~
場所: Zoomでオンライン開催(参加希望者は前日までにshisoshiken@gmail.comにご連絡ください。)
〇要旨
1950年代は日本の政治イデオロギー上、大きな変化があった。保守・革新政党がそれぞれ自由民主党と日本社会党に集約され、保守政党である自由民主党が政権与党を担ういわゆる「55年体制」が確立し、改憲・安保護持の保守思想が政治的ヘゲモニーを得た。他方革新思想の担い手として、また大日本帝国時代から天皇制と対峙した唯一の主体として、政治的・知的ヘゲモニーを獲得していた日本共産党は、国際派と所感派とに分裂し、イデオロギー対立が先鋭化していった。
戦後日本における政治学・思想史学の碩学、丸山眞男にとっても1950年代は大きな意味を持つ。例えば日本の「前期的」近代性に西洋近代を対置する40年代丸山から、大衆社会に代表されるポスト近代の問題性を指摘する60年代の丸山との間には、大きな断絶がある。この両者をつなぐ時期が50年代という時代であるといえよう。
この時期、丸山は「スターリン批判」にまつわる論文の執筆や対談を行っている。日本の革新思想に大きな影響を与えた契機である「スターリン批判」に焦点を当て、この事件が丸山にとってどういった位置付けを持つのかを明らかにすることで、新たな視点から50年代丸山を見ることが可能ではないか、という意識が本報告の背景である。具体的には、「スターリン批判」において丸山が重視する要素(「問題意識」)がどのようなものかを著作・対談から抽出した上で、それがそれ以前の丸山の「問題意識」とどのような関連に立つのかを分析し、最後にその後の「問題意識」の展開を示すことで丸山の「スターリン批判」の思想的位置付けを明らかにしたい。
結論を先取りすると、「スターリン批判」における丸山の「問題意識」とは、①:政治的理念と政治的現実との間の緊張関係の欠如、②:スターリン崇拝における「国体」的正統性の残滓と統一の志向性(「正統病」)、③:「本質顕現論」や「基底体制還元主義」、共産主義思想における非合理を許容しない合理主義的なリゴリズムおよびその帰結としての官僚制の問題であり、それは戦前・戦中・戦後の「問題意識」が通底しながらも変質したものであった。その後ここで挙げられた「問題意識」は「正統と異端」の問題へと収斂してゆく。
〇参考文献
笹倉秀夫,『丸山眞男の思想世界』,みすず書房,2003
清水靖久『丸山眞男と戦後民主主義』,北海道出版界,2019
丸山眞男『丸山眞男全集』(特に第三巻以降,岩波書店,1996
丸山眞男『丸山眞男座談』,岩波書店,1998
丸山眞男『丸山眞男講義録』第四冊,東京大学出版会,1998
吉田傑俊『丸山眞男と戦後思想』,大月書店,2013

