日本思想史研究会(京都)のブログ

本研究会は立命館大学を拠点に、歴史学・思想史の問題について時代・地域に捉われることなく、深く考えていく場として設立されました。2014年度後期例会は、個人研究テーマ報告です。

11月3日 例会報告要旨

〈報告要旨〉
博論構想:近世日本の儒教と儀礼
―闇斎学派の朱熹『家礼』受容と儒礼実践に関する思想史研究―

松川雅信

 本報告では、現在執筆途中の博士論文の概要に関する経過報告を行った。
 現在構想中の博士論文では、朱熹『家礼』を中心とした儒礼をめぐる近世日本儒者の言説、ならびにかかる諸実践という問題を、闇斎学派に即しながら論じていくことを課題に据えている。こうした課題設定を行う所以は、既存の近世日本儒教研究の成果を振り返ってみた際に、そこでの問題の所在が概ね以下の二点に存していると考えるからである。
 儒教が近世日本において「体制教学」たり得ず、社会的にはむしろ非特権的位置にあったということは、斯界ではもはや贅言を要さない大前提であろう。こうした大前提に基づき従来の研究は、近世日本において儒教が「学問」としての、いわば「儒学」としてだけ限定的に展開し得たという点を強調してきた。だが近世日本の儒教を、「儒学」としてのみ捉えることで零れ落ちてしまうのは、近世日本儒者の『家礼』をはじめとした儒礼への旺盛な関心という事実であろう。近世日本儒者による儒礼へのとり組みという事実が看過されてきたということ、これが既存の研究に孕まれた一点目の問題点である。近世日本にあって儒教が非特権的であったという大前提それ自体は疑う余地がないものの、そのことは必ずしも儒教が「儒学」としてだけ展開し得たということを意味しない。むしろ、近世日本儒者が儒礼の問題にとり組んでいたという事実を、かくなる大前提を共有しながら思想史的に意味づけていく作業が必要なのである。
 近世日本儒教の展開を各儒者や学派に即して論じるに際し、戦後飛躍的に研究が進展した対象は、何といっても「徂徠以後」の儒者・学派に関するそれだろう。「徂徠以後」という主題は、徂徠学に近世日本儒教の到達点を見出した丸山眞男『日本政治思想史研究』に対するアンチテーゼとして研究史上に大きな意義を有し、例えば近世後期の寛政朱子派等については、現在進行形でなお様々に研究が蓄積されつつあるといっても過言ではあるまい。しかしながら「徂徠以後」の主題化は、徂徠学を分水嶺として近世日本儒教を捉えるという点では実のところ、丸山が示したシェーマを継承している。そして、かく徂徠学に画期が見出されることで、未だ死角としてとり残されてしまっているのは、徂徠学登場以前から近世後期に至るまで、一定の影響力を有しながら存続していた学派をどう位置づけるかという問題ではないだろうか。これが二点目の問題点であり、また本研究が闇斎学派を主たる対象に据える所以である。
 博士論文では、以上の研究史上の問題点を克服するためにも、闇斎学派に即して近世日本における儒礼をめぐる問題について考察することとし、もって新たな近世日本儒教像の提示を目指したい。

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