日本思想史研究会(京都)のブログ

本研究会は立命館大学を拠点に、歴史学・思想史の問題について時代・地域に捉われることなく、深く考えていく場として設立されました。2014年度後期例会は、個人研究テーマ報告です。

6月30日例会 報告要旨

題名「育鵬社版中学校教科書『新しい日本の歴史』における日本神話」
報告者 富山仁貴
 本報告は育鵬社の中学校歴史教科書の背景およびその内容から、今日の右翼的歴史意識の一端とその日本神話の取扱い方を論じる。この教科書は1996年に生まれた右翼社会運動団体「新しい教科書をつくる会」を源流に持ち、右翼的立場から日本の「伝統」を重んじた新しい歴史観を作ることを目指した。その背景には、「慰安婦」問題の浮上や戦後50年の「村山談話」に対する、日本会議等の右翼政治勢力の反発があった。その後、「つくる会」は動揺と分裂を繰り広げ、今日は八木秀 次ら「日本教育再生機構」および「教科書改善の会」が中心となって育鵬社教科書は作成されている。第二次安倍内閣が彼らを代弁する勢力であることはよく知られているが、その狙いは教育を国家戦略と位置付けて、学校教育を通じたイデオロギー動員を衰退する日本社会の推進剤とすることである。彼らは歴史認識問題に強い関心を示し、近年、右翼メディアは「歴史戦」キャンペーンを行っている。
 さて、育鵬社教科書の原始・古代史分野は、①「わが国」「日本(人)」という言葉遣い、②対外関係や社会史的観点の忌避、③文化史評価の主観主義などいくつもの問題が見られる。日本神話に関してはコラム扱いとし、国生み・天の岩戸・因幡の白兎・三種の神器と天孫降臨・日本武尊のエピソードを紹 介する。しかし、戦前の国定教科書と違って取り扱われる題材は限られており、戦後日本の神話観の変化に伴う、ある意味で「貧困な」取扱いしかできていない。それでも神話を「歴史の事実そのものとはいえませんが、当時の人々の、日本の国の成り立ちについての解釈や生活のようす、ものの考え方、感じ方を知るうえで貴重な手がかりとなっています」とし、記紀が政治文書であることを抹消しようとしている。
 以上から言えることは、今日の右翼的な歴史認識は、歴史観と言えるようなものではなく、むしろ帝国主義的歴史意識であると言える。これは国内的の社会・経済敵には「新自由主義」と評価される今日の政治体制は、暴力を前景化させつつある世界体制のなかで経済的・軍事的な対外進出を狙 い、イデオロギー面では大国意識と危機意識を抱えているという特徴に基づく。ただし、このイデオロギーは国体論的歴史意識の復活を意味せず、神話においては「薄まった神話」しか動員することが出来ないでいるといえる。

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