日本思想史研究会(京都)のブログ

本研究会は立命館大学を拠点に、歴史学・思想史の問題について時代・地域に捉われることなく、深く考えていく場として設立されました。2014年度後期例会は、個人研究テーマ報告です。

2015年11月12日 例会報告要旨

 今回の発表では、植民地朝鮮の新宗教に多大な影響を与えた、朝鮮時代の秘訣である『鄭鑑録』にかんする研究ノートを報告した。朝鮮後期の抵抗運動において、もっとも持続的かつ反復的なモティーフとして作用したのが「真人による新たな主都の建設」という骨子の真人出現説である。かかる真人出現説にかんする無数の予言・図讖・秘訣類が流通されていたが、『鄭鑑録』もそのひとつとして現れた。
 『鄭鑑録』は、①李沁〔李氏朝鮮の先祖〕と鄭鑑(鄭勘)〔李氏に代わって王権を握る真人〕の対話という形式をとっており、 ②地理衰退説に根拠つけられた、鄭氏=真人による李氏王朝の滅亡が予言され(漢陽の李氏→鶏龍山の鄭氏→伽倻山の趙氏→完山の范氏の順で易姓革命)、③王朝交代期は極度の乱世(=両乱期民衆の体験が反映)と、その際の避難場として提示される「十勝地」が提示されることが特徴である。『鄭鑑録』は、朝鮮王朝の支配イデオロギーに対抗しながら、一種の対抗イデオロギーを形成したと評されてきた。
 ただし、注意を払うべきところは、かつて『鄭鑑録』が、同時代の予言・図讖・秘訣類のなかで特権的な秘訣ではなく、あくまでもその一種類にすぎなかったことである。これと関連して、同じく真人出現説にかかわる図讖・秘訣類には『鄭鑑録』の核心様相のひとつである「十勝地」の言及が無い点も看過してはいけない点である。にもかかわらず、一九二〇年代朝鮮では、『鄭鑑録』はあらゆる図讖秘訣説及びその信仰全体をその範疇にしていたが、本報告ではその背景として一九二三年の『鄭鑑録』定本の発刊に注目し、執筆者である細井肇の朝鮮観などを検討した。

文責:朴海仙

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