日本思想史研究会(京都)のブログ

本研究会は立命館大学を拠点に、歴史学・思想史の問題について時代・地域に捉われることなく、深く考えていく場として設立されました。2014年度後期例会は、個人研究テーマ報告です。

2014年4月24日例会山口報告要旨


いわゆる「羽仁史学」の評価は戦前・戦時下の業績が主たる対象であり、戦後はその評価の埒外であった。
しかし戦後において注目できるのは、「現代の歴史学はアウシュヴィッツから出発しなければならない。」(「現代に生きる歴史学徒の任務」一九六五年『羽仁五郎歴史論著作集』第二巻、青木書店、一九六七年、三七七頁)とする「アウシュヴィッツ」の問題であった。これに関してはマルクス主義を含むアウシュヴィッツ以前のすべての思想・文化と運動を清算的に批判し、それに代わって現代的危機を超越するかのような論理と運動の探求であったと評価されている。だが、「アウシュヴィッツからの出発」はむしろ一九五五年に刊行された『昭和史』をめぐる論争(昭和史論争)を引き受けた議論であった。
一九四〇年代の羽仁の著作からみても分かるように「科学」としての歴史学を強調し、厳密な実証の中で歴史学を自立化させ、それによって科学性を高め、それとともに科学論理としての唯物史観を強調していった。しかし昭和史論争はそうしたマルクス主義歴史学に対する異論を提起したのである。現時点で確認できる羽仁の「アウシュヴィッツからの出発」は「現代に生きる歴史学徒の任務」であり、そこで提起されているのは昭和史論争における人間の問題や政治史の問題であった。つまり、羽仁の「アウシュヴィッツからの出発」は羽仁史学の転回というよりも、昭和史論争で提起された歴史学をめぐる問題に対する議論であった。

文責:山口一樹

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