日本思想史研究会(京都)のブログ

本研究会は立命館大学を拠点に、歴史学・思想史の問題について時代・地域に捉われることなく、深く考えていく場として設立されました。2014年度後期例会は、個人研究テーマ報告です。

夏季合宿川合報告の報告題名

上記の件につきましてご連絡します。

報告題名:「1910年代におけるサンディカリズムに関する言論と知識人の存在」

報告者:川合大輔(名古屋大学大学院)

【要旨】

戦後の日本において、サンディカリスムについてのまとまった研究が著されてきたのは、1970年代になってからのことである。喜安朗氏が『革命的サンディカリズム パリ・コミューン以後の行動的少数派』(河出書房新社、1972年1月)を上梓したことによって、それまで散布していたサンディカリスム研究が、相互批判的にまとまりをみせてきたのであった。近年においては、桐生尚武『イタリア・ファシズムの生成と危機 1919―1925』(御茶の水書房、2002年11月)など、サンディカリスムの理念や内容が、どのようにファシズムへと接続・転化していったのかを詳述した著作も発表されている。

ところで、フランスやイタリアなどの諸外国ではなくて、近代日本で展開したサンディカリスムについては、社会運動史や政治史の中で論じられることはあっても、サンディカリスムそのものをまとめた研究書は、管見の限り見当たらない。

そして興味深いのは、戦前において「非合理主義」と罵られていたサンディカリスムが、戦後においては、白眼視されなくなったことである。その理由の一つとして考えられるのは、サンディカリスムの普及に貢献した大杉榮の思想や生き様が、戦後の研究において、概して、高く評価されていることである。大杉に関する先行研究は数多くあって、その思想の内のどの側面にアクセントを置くかは論者によって異なる。けれども、思想の本質なり構造なりについては、おおむね見解が一致している。典型的な例を示すと、次のようなものである。


大杉は、明治社会主義の中から幸徳の後を継ぐ無政府主義として生まれたが、まずその個人主義を徹底化することによって明治社会主義と(そしておそらく明治の思想界そのものと)別れ、大正初期の文壇をリードした。次に彼は、その組合主義に依拠することによって、明治の社会主義者が空想の中においてしか果たせなかった夢、つまり、労働者階級と具体的に結びつくこと、に成功し、その別れを決定的にした。(竹山護夫『大正期の政治思想と大杉栄 竹山護夫著作集第二巻』、名著刊行会、2006年1月、124頁)


ここに〈自由〉や〈反逆〉といった鍵概念を上掛けすると、大杉榮の典型的な思想像となる。このように、大杉の思想を読み解く際の角度は、おおむね固定されている。そして、その角度からみられた大杉の思想の評価は、概して高いものとなっている。それゆえ、このフィルターを通してみられたサンディカリスムが、ただちに白眼視されることはないはずであるし、ファシズムと結びつくことも、ねじれ現象とみなされるはずである。

この見方は、戦後から現在にかけて、近代日本型サンディカリスムを認識する際の基礎となっているので、どれほど新資料を提示しようとも、それは、この通常の見方を補強する手段となるのみである。ところでこのような、戦後から現在にかけてのサンディカリスムへの認識・評価が正しくて、それとは食い違っている戦前におけるサンディカリスムへの認識・評価が誤っている、と即座に決めつけることはできない。このことから、近代日本型サンディカリスムそのものをまとめた研究が見当たらないこともあり、まず行うべきなのは、サンディカリスムに関する言論の軌跡をこまめに追っていき、時代状況と関連づけながら、その意義を確認していくことであると考える。

このような問題意識から、本発表では、最初に、サンディカリスムへの関心が本格化してきた時期に、知識人が、その概要をどのようにとらえていたのかを論じる。次に、サンディカリスムの普及に貢献した大杉榮の思想を論じる。その際、とくに、大杉の科学観・科学論に注目する。この視点は、大杉の思想を読み解く立場として、それほど重視されていない。けれども、梅森直之氏「大杉栄における「科学」と「自由」―明治社会主義との関係において―」(『早稻田政治經濟學雜誌』第309・第310合併号、1992年4月)で記されているように、大杉の思想は、科学と密接に結びついている。


大杉の「科学」への関心が青年期に端を発し生涯を通じて変わらなかったことは、「科学」を主題とした多くの論説の執筆や、ダーウィンの『種の起源』、クロポトキンの『相互扶助論』、ファーブルの『昆虫記』等をはじめとする自然科学の名著の翻訳が、生涯を通じて活発に行われていることからもうかがえる。(377頁)


それゆえ、本発表では、大杉の科学観・科学論を読み解く。このことを重視する理由は、論の途上で明らかになる。最後に、大杉の論説を批判した土田杏村の思想を読み解く。この作業を行うことによって、サンディカリスムの伸長と共に起きてきた重要な事柄が、より明らかとなる。

参考文献

ソレル『暴力論』上・下巻(今村仁司・塚原史訳、岩波書店(岩波文庫)、2007年9・11月)

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