日本思想史研究会(京都)のブログ

本研究会は立命館大学を拠点に、歴史学・思想史の問題について時代・地域に捉われることなく、深く考えていく場として設立されました。2014年度後期例会は、個人研究テーマ報告です。

12月20日例会報告要旨

【報告要旨】


本報告では、教育勅語の「国民道徳協会による口語文訳」として知られる文章を取り上げ、この訳文の流布過程と、この種の現代語訳が戦後の教育勅語復活論の中で持つ意味についての考察を試みた。
 元衆議院議員(自民党所属)の佐々木盛雄が一九七二年に発表したこの「口語文訳」は、「皇祖皇宗」と「爾祖先」に同じ「私達の祖先」という訳を当てる、「以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」を無視する、等々の意図的誤訳と歪曲により、明治天皇が臣民に対して天皇に対する永久の忠誠を求める、という、教育勅語が本来持っている国体論的構図を隠蔽しており、教育勅語とは別内容といっていいほどの奇妙な「訳」文となっている。
 にもかかわらず、この訳文は発表直後に明治神宮発行のパンフレットに採用されて広く知られることになったのみならず、一九七九年頃からの神社本庁・「日本を守る会」等を中心とした教育勅語キャンペーンにおいても広く採用され、あたかも定訳であるかのような扱いを受けることになった。二〇一二年末現在も明治神宮等での頒布は続けられている。
 一九六四年から二〇〇三年にかけて発表された、教育勅語擁護論の立場に基づく現代語訳十一種を比較検討したところ、この種の、国体論的構図を隠蔽する一方で、「父母ニ孝ニ」以下の徳目条項の普遍性を強調し、その延長下で「愛国」を要求するという性格を持つ「訳」文は、一九七〇年代初頭に数種類登場していることが確認された。より原文に忠実な訳文も存在するにもかかわらず、明治神宮などの神社神道勢力ではこの種の訳文を積極的に流布させている。
 この種の訳文は、高度成長期以後の、戦前的国体論への単純回帰が困難という状況を前提として、現代社会に受け入れやすくするため、意図的に内容を読み替えたものと考えられる。

文責:長谷川亮一

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